不動産トラブル事例

不動産を購入する前や購入したのち、不動産会社とのトラブル、工務店とのトラブル、近隣とのトラブルなど、
さまざまな悩みと直面することも少なくありません。
今までに実際におきたトラブルを事例として紹介し、考え方や解釈の仕方などをご紹介いたしております。

手付金にはどのような意味合いや必要性があるのでしょうか

不動産の売買では多くの場合、売買契約の締結に当たり手付金(内金)が定められていますが、なぜ手付金を支払わなければいけないのでしょうか。

手付金には「証約手付」「違約手付」「解約手付」の3つの意味があります。

不動産の売買契約においては、不動産の契約時に買主が売主へ手付金を支払うことが契約成立要件の一つとされています。手付金の額は一般に売買代金の5%~20%の間で決められています。また、手付金は本来売買代金とは異なるため、残金決済時に買主は売買代金を支払い、売主は手付金を買主へ返還するのが原則ですが、この様なやり取りは煩雑になるため、一般的には残金決済時に支払った手付金を売買代金から差し引き、残りの売買代金を売主に支払うことを事前に売買契約書に取り決め手付金を清算します。

証約手付・・・手付の授受は売買成立を証明するもとなり、売買契約の成立を表します。

違約手付・・・買主違約の解約解除は手付金が違約金として没収されます。売主違約の契約解除は手付金を返還

し、なおかつ手付金と同額を違約金として支払うことをいいます。

解約手付・・・契約成立後であっても、売主からは手付の倍額を返還、買主からは手付金を放棄することにより、

それぞれ相手方の承諾を得ずに契約を消滅させることができます。その他の損害賠償をすることな

く契約を消滅させることができる。

≪裁判事例 大阪高裁 平成6年3月≫

売主から決済前に、事情が変わり手付倍返しで契約を解除したい。買主に通知するだけで契約解除は可能なのか。

 

最高裁のでは「民法557条1項により売主が手付けの倍額を償還して契約の解除をするためには、手付けの「倍額ヲ償還シテ」とする同条項の文言からしても、また、買主が同条項によって手付けを放棄して契約の解除をする場合との均衝からしても、単に口頭により手付けの倍額を償還する旨を告げその受領を勧告するのみでは足りず、買主に現実の提供をすることを要する。」と判断し、「売主は買主に対して手付けの倍額を支払う旨を口頭で申し入れており、それ以上に現実の提供(相手方が受取ろうと思えば受け取れる状況を作り出すこと)をしたことを特段の主張・立証をしていないことから、契約の解除効果をもたらす要件の主張を欠き、売買契約解除の意思表示が無効であることは正当である。」としました。

「現実の提供」とは相手方の対応等により具体的な態様は異なります。買主に対して手付けの倍額に相当する現金を交付する場合もあれば、取引の状況によっては銀行保証小切手の交付など現金の授受と同視し得る経済上の利益を得さしめる行為をすれば足りる場合もあるとしています。

 

2020年4月施行の民法557条1項では「買主はその手付けを放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りではない。」となりました。手付倍返しによる解除を行う場合の文言を「償還」から「現実に提供」に改めました。手付解除を争おうとする当事者に履行の着手に関する主張立証責任があるが、ただし書を付加する形で明文化されました。